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世界一幸せな理由は、夢中の見つけ方にあり。フィンランドで出会った「くらしの夢中」6つのヒント。

フィンランドへくらしの夢中を観測しに行ったことで夢中という言葉の可能性が、ぐっと広がった気がします。ああ、こんな夢中もあっていいんだ。なるほど、これは日本にも取り入れたい夢中かも。…そんな気づきがたくさんありました。

フィンランドでの夢中観測報告、今回が最後です。現地でくらしながら見つけた夢中の種を日本のくらしでどう育てていけるか、考えてみたいと思います。

1 フィンランドと日本「夢中を置く位置」がそもそも違う

今回、日本人でフィンランドに移住した方の話をたくさん聞きましたが、共通していたのはフィンランドに来たばかりの時に最も戸惑ったのが「あなたは何がしたいの?」という質問だった、ということ。

20代ほどの年齢でフィンランドに行くまで、自分が何がしたいかをまったく考えてこなかったことに気づき衝撃を受けて、慣れるまで苦労したというのです。

その話に私たちも妙に納得してしまいました。確かに日本のくらしって「あなたは何がしたいの?」という質問をほとんどされないまま大人になれちゃうんです。

「あなたは何になりたいの?」は、よく聞かれますよね。サッカー選手、お嫁さん、ケーキ屋さん、最近だとYouTuber。でも実はこの2つの質問、一見同じようでいてまったく違うんです。

「何になりたいか」には「何がしたいか」が求められないんです。「いい大学に行きたい」「いい会社に入りたい」も同じです。「有名になりたい」「幸せになりたい」も同じです。そこに「何がしたいか」は求められない。

「何になりたいか」の前に「何がしたいか」

例えば自分は人を病気から助けたいと思えば、お医者さんだけじゃなく、薬の開発者や医学の研究者や医学の番組をつくるTV製作者など、いくらでもなりたいものを考えられるのに何がしたいかがわからないまま「お医者さんになりたい」を目指すと、なれなかった時に深く挫折して心が折れてしまう。
何がしたいかを考えないって、そういう脆さもあるんです。

自分で試してみるとわかります。すぐできます。「あなたは何がしたいの」って自分に聞いてみてください。答え、すぐに出てきましたか?……………ですよね?自分と向き合い、自分の声を聞いて、自分と会話しなければ答えが出ない。これ、ある意味、生きるべきか死ぬべきか的究極の問いなんです。

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「何がしたいか」を探せる夢中応援図書館「Oodi」

日本とフィンランドはよく似てるらしい…と事前に予習していきました。確かに人柄や文化、歴史や環境はよく似ているんですがこんなにも意外なところに最大の違いがあったとは!と知りました。それは「夢中を置く位置」だったのです。

日本ではたくさんの夢中がすでに「自分の外側」にたくさんある。情報もたくさんあり、流行も次々生まれるから、そこからチョイスして選べてしまう。お父さんやお母さんや先生が、選ぶべき答えを教えてくれたりもします。だから日本では自分がやりたいことって、あまり考えなくていい。

対してフィンランドは「自分の内側」に夢中を置きます。幼い頃から自分がやりたいことを大切にしましょうと教えられる国。小さな子どもたちも自分が夢中でやりたいことを考える機会が多く、それをダメだと言われることも滅多にない。

「そんなことやったって無駄だよ」「それで儲かるの?」なんて言われない。それをダメだと言われることも滅多にない。しかも夢中は人生の中でどんどん変わっていい。学費が無料だから何歳になってもちゃんと学び直して全然違う人生を歩める。

「外側」「内側」どっちがいいか悪いか、という話ではありません。どちらにも長所も、短所もあるんです、きっと。でもこれからくらしに必要なのは自分の内側に置く夢中ではないでしょうか。

時々自分の声を聞いて、自分と対話することが日々のくらしの中に夢中を増やすためには大事なんじゃないか。特に寿命が延びて、人口が減るこれからの日本では。
と、フィンランドで強く感じてしまったのです。

2 すでにある豊かな自然に夢中になれること

自分に向き合う、自分の声を聴く。それを手助けしてくれるものがフィンランドにはたくさんありました。それが「自然」です。

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サウナの後、湖に飛び込むと自然の一部になれる

ポジティブにあきらめるとかフィンランド人はすごく合理的。やる必要がないことはとにかくやらない。それは合理的じゃなくちゃ生きていけないほど自然が厳しいから。
という言葉が取材中にすごく心に残りました。

訪れたのは初夏で、国民の皆さん誰もがほんのわずかな幸せを全身で楽しんでいる季節でした。自然の豊かさと厳しさ、そのどちらもがこの国の夢中に影響を与えているに違いないと感じました。

窓の向こうに、何を見る?

ホームステイしたお家で一般家庭のサウナに入れてもらいました。薄暗くてとても居心地がよく、小さな窓から綺麗な陽光が差し込んでいました。

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ホームステイしたお家のすてきなサウナ

サウナを見せてくれた時、お母さんが「とにかくサウナに窓をつけたかった。そこから庭の木を眺めたかった」と語ってくれました。フィンランドには公衆サウナにも小さな窓があることが多く、そこから必ずと言っていいほど、外の自然が見えました。

自分と向き合う時に、フィンランドでは自然の存在を感じることを大切にするんだな、と感じました。日本でこの窓に当たるのが、たぶんテレビです。

日本のサウナにはテレビがほぼ必ずありますし、最近では家庭のお風呂にも小さなテレビがあったりしますよね。テレビって社会の今を見るための便利な窓なので夢中を自分の「外側」に置く日本人には必要なものなのかも。

でも最近はテレビがないことを売りにする高級旅館や自然の中で時間を過ごすキャンプも人気で(キャンパーは焚火を、いつまでも見ていられる大自然のテレビなんて言ったりします)自然の中で自分と向き合う時間が、日本でも見直されているような気もします。

以前の投稿でも書きましたが、フィンランドは湖を眺めるためだけのベンチがあります。

そこには「立ち入り禁止」「危険注意」などの看板がまったくありません。
これって実はとても贅沢なことじゃないか、と感じました。自然と向き合い、自分と向き合う権利がちゃんと保証されている。そんな気がしたのです。

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湖を見るためのベンチがいたるところに

日本も昔から豊かな自然があり、自然と人との間からたくさんの文化を生み出してきた国です。自然の中にある夢中は、これからの日本でもますます価値が上がっていくかもしれません。

3 家族と過ごす時間に夢中をちりばめる

フィンランド取材は2019年の6月でしたがここで書こうとしていることはコロナ禍と向き合う日本中のみなさんが同じように感じたことではないでしょうか?

夏のヘルシンキ、あちこちで見られたのは仕事を早々と終えてのんびり芝生の上で食事をしながらいつまでも語り合っている家族がとても多かったことでした。

夜遅くまで明るいけれどあっという間に過ぎ去ってしまう夏をゆっくり過ごそうよ、という家族の夢中がそこにありました。注意して観察していたのですが家族で会話しながらスマホを眺めている人はとても少ない、と感じました。

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芝生の上ではスマホより会話に夢中

長く厳しい冬を楽しくするために家の中に居心地がいい場所をたくさんつくったり手作りのアートやインテリアにこだわったり自然の厳しさと豊かさを知り尽くしているフィンランドの人たちはないものを欲しがるのではなく、あるものを最大限に活用する夢中が上手なんです。

この感覚、外に出て行くことのできない緊急事態宣言の期間中に、誰もが感じた感覚ではないでしょうか。ホームセンターが賑わっていたり、あつ森や
家庭菜園なども注目されたりしましたよね。

家にしかいられない、と途方にくれるのではなくだったら家で夢中になれる方法を考えようと思える。それこそがこれからの暮らしに必要なポジティブにあきらめるという極意なのかもしれません。

4 夢中になる前に、心と体をととのえて

フィンランド人のお父さんと話していた時に英語で教えてくれたのが、フィンランド人は湖の湖面のような「Calm=穏やかな」という状態を大事にしているということ。

日本ではゆく川の流れや寄せては返す海が私たちの精神性にも大きな影響を与えてきたのですがフィンランドではそれが波立たずいつもキラキラと光を反射している湖面なんだ、と思いました。(ちなみにフィンランドにはなんと19万近い数の湖があるそう!)

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ホームステイをしたお家の最寄りの湖

驚くことに、日本ではバラエティ番組で有名な凍った湖に飛び込むあの習慣もフィンランドでは「Calm」のためなんだそうです。どう見ても「Crazy」じゃないの?と思っちゃいますが…氷水の冷たさとサウナの暖かさで身体の循環を良くすることでメンタルが穏やかになるんだとか。

最近日本のサウナ界隈でよく聞く「ととのう」ってまさに「Calm」なんでしょうね。足したり引いたりせずに、自分が持っているものをベストな状態にする、という意味が「ととのう」にはあります。

まずは自分の声を聞くことが日本の夢中には必要じゃないかと書きましたが心がととのっていないと、なかなか自分の声って聞こえないものです。

くらしの夢中を増やすためにもフィンランド人にとってのサウナのような、世の中の情報から切り離されてゆっくり自分と対話できる場所や時間が、日本にもあるべきだと思いました。

5 困難な逆境に、立ち向かうための夢中とは

フィンランドに行く前に読んだ一冊の本、「フィンランドの幸せメソッド SISU(シス) カトヤ・パンツァル著 柳澤はるか訳」。SISUは日本語にするのがとてもとても難しい言葉です。

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本の表現を借りながら、あえて言葉にするとしたら「逆境から逃げるのではなく、自分を鼓舞して、少しでも危機を乗り越えるために考え続け行動し続ける強い意志」でしょうか。フィンランドは飢饉や戦争や厳しい自然など乗り越えることが困難な逆境をいくつも経験してきた国なのです。

SISUの説明を聞くと非常に厳しく、笑顔もなく失敗など許されない断固とした強さを感じたりもしますがフィンランド人はそこに少しのユーモアと前向きさを忘れないことを大切にしているように感じました。

例えば国際失敗デー(10月13日)のように失敗をみんなにシェアしていくやり方もフィンランド発。失敗しちゃいけないんじゃなくて、失敗していい。
それを隠すんじゃなくみんなに話すことでそこから立ち上がる大切さを学ぼうよ、と考えられる。こんな発想にこそSISUの本質があるように感じます。

エアギター世界選手権が行われるのもフィンランドですし夫が妻を担いで走る奥様運びレースや、携帯電話投げ競争など世界が注目する不思議なお祭りが多いのもフィンランド。

たぶんこの国はお金やモノじゃなくて、どんな逆境でも夢中になれる「人の知恵」を何よりも信じているんですよね。

6 何かに夢中になっている人は、他人の夢中を邪魔しない

長い長い文章もいよいよ最後になりました。フィンランドで見つけた6つ目の夢中の種は「他者の夢中に寛容であること」です。

ヘルシンキ郊外の森で出会ったこの不思議なトレーラーハウス。

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まだ見ぬ日本への夢中がつまった居心地のいい空間。

フィンランドの若者がセルフビルドでゼロからつくったそう。中に入ってみると、とても居心地がよくなんだか懐かしさも感じました。

彼に話しかけてみると、谷崎潤一郎の「陰翳礼讃」を読んで日本のことが大好きになり、このトレーラーハウスをつくったのだとか。それでも彼はまだ日本に行ったことがないのだそう。まさに彼のまだ見ぬ日本への夢中が、そのまま形になった空間なのです。

儲かるか、儲からないかや、正しいか正しくないか、という判断からは生まれてこない、彼の夢中が創り上げた空間は、日本から来た私たちにも、とても心地いいものでした。

フィンランド人は、性善説だと言われます。街の中に注意書きがとても少ないですよねという話をしたら「注意書きを掲げて守らせることにコストをかけるよりはまずは注意をしなくても守ってくれる人を信じる。それでも守らない人がいたら、ちゃんと話し合ったり別の方法を考える道を選ぶ」のだそうです。

究極の合理性としての性善説なのかもしれませんが、それが社会に居心地の良さを生み出しているのも事実。

「危ないから」「無駄だから」などの理由で子どもたちがやりたいことをやめさせることなく少し離れた場所で見守る親や先生のまなざしがそのまま社会全体にまで行き渡っていて、大人になっても、やりたいことに夢中になれる。そんな姿が見えてきました。

自分も何かに夢中になっている人は、誰かの夢中を邪魔しようとは思わない。そういう個人の夢中への寛容さがこの国の幸福度を支えていたのだ、と知りました。

これはぜひ日本の組織の未来においてもヒントにすべきポイントだと思います。

私たちが直面しているのは正解がない時代だと言われます。いっそ正解がないならば、夢中をものさしにして一人ひとりの夢中から、次の正解をつくれないだろうか。それが企業や組織の力になって、居心地のいいくらしを実現できないだろうか。その発想が、今の企業や組織に必要なのではないでしょうか。

日本で調べただけではわからない、福祉や教育などの充実という側面だけではない世界一幸せな国の幸せの理由にたくさん出会えたくらしの夢中観察ツアー。

私たちを導き、道中もあたたかく見守ってくれたのは「週末フィンランド ちょっと疲れたら一番近いヨーロッパへ」

週末フィンランド

の著者である岩田リョウコさん。本当にありがとうございます。私たちの観察報告を読んでいただき、くらしの夢中のヒントをひとつでも見つけていただけたらとてもとても幸せです。


これから日本に増やしたい「くらしの夢中」6つのヒント

1 自分の外側ではなく内側の夢中に耳をすましてみる
2 すでにあるもの(自然など)に夢中になれる
3 家族と過ごす時間に夢中をちりばめる
4 夢中になる前に自分と向き合う時間を持つ
5 困難な逆境においてこそ夢中を大切にできる
6 自分の夢中はもちろん他者の夢中にも寛容である



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