とんでもないこと、やらかしてますね。「髪は若返る」研究10年でたどり着いた、人類の夢
クラシエが「 CRAZY KRACIE」 を標榜してから4年。社内ではさまざまな人によって、「常識を超えていく」 仕事や活動が創出されている。なかでもとりわけCRAZYなのが、不可能だと思われていた「 髪の若返り」 を実現したビューティケア研究所の礒辺真人さんと、工場の一部が重要文化財である新町工場で「 虫混入お申し出件数ゼロ」 に挑戦した新町工場の清水大輔さん。2人は2020年、2021年のNICE!CRAZY大賞も受賞した。そんな2人の「 ここまでやるか!」 なストーリーとは?
礒辺真人 クラシエホームプロダクツ株式会社
ビューティケア研究所 第二研究部 研究員
新たに設立された基礎研究部門
2人で革新的なテーマに挑む
「将来の夢は研究者」 小学校の卒業文集にそう書くほど、根っからの研究者気質。東北大学の薬学部に進学し、研究室の仲間が製薬会社に就職するなか、「日常生活に近い研究をしたい」 と2010年、クラシエに入社した。
そこからはヘアケアの研究一筋。自分の髪は実験材料の一つと考え、肩まで伸ばしてみたり金髪にしたりといろいろ試していた時期も。
製品開発を続けていた2017年、毛髪の基礎研究部門が立ち上がる。
まさしくクラシエがビジョンに「 CRAZY KRACIE」 を掲げた年。新しいことへ挑戦する機運が高まり、ビューティケア研究所にも基礎研究から画期的な商品をつくっていく潮流が起こりつつあったのだ。
「ずっと基礎研究がやりたかったのでうれしかったですね。基礎研究だと、製品開発では必要なコストや安全・安定性といった観点をひとまず外して、限界を超えたテーマに思い切り挑戦できるんです」
メンバーは、礒辺さんと先輩の2人だけ。チームは小さくても野望は大きく、「世界中の女性の髪を10歳若返らせる」 をターゲットとすることに決めた。
「若返りは人類の夢で、普遍的な研究テーマ。みんなどこかで『 無理だ』
と思っているから夢のままだったんです。でも髪の毛は、人体の中で唯一ヘアカラーやパーマなど化学的な処理が可能な部位。全体が若返るのは無理
でも、髪の毛だけならいけるんじゃない? と前から思ってたんですよ」 と笑う。
フラスコ内の髪の毛を見つめ
変化が起きることを願った
礒辺さんが注目したのは、毛髪内のタンパク質が酸化する「 カルボニル化」
という老化現象だった。カルボニル化した髪はぱさついたり、湿気でうねる。そうなった髪は元に戻らないというのが常識。でも礒辺さんはそう考えなかった。
酸化の反対は還元。だったら、酸化した髪の毛に還元反応を起こせばいい。
発想はシンプルだが、還元反応は条件が厳しく、これまでに人体の一部で
ある髪への応用を試みた人はいなかったのだ。
「髪の毛の研究自体が化粧品業界ではニッチなんです。さらに髪の毛の還元
反応というテーマは前例がなく、下調べにとても苦労しました」
医薬品、工業用途などまで範囲を広げ、ひたすら論文や学会発表を読み
漁る日々。その中から、「 還元的アミノ化反応」 が若返りにつながるという着想を得て、いよいよ実証実験へ。
「毛髪サンプルをフラスコに入れ、試薬をいくつか混ぜて状態を確認するん
です。まったく変化がなかったり、髪の毛自体がダメになってしまったりと、期待する反応を起こすのは至難の業でした」
使えそうな試薬がないか100以上の文献にあたり、研究所だけでなく家でも
時間があれば考える。試行錯誤するなかから、適用できそうな条件を探し
当てた結果、うねった髪の毛が還元的アミノ化反応でまっすぐに戻ることを、とうとう確認!人体への応用にも見通しがつき、髪の若返りは可能だと言えるところまできた時には、研究を始めてから2年以上の月日が経っていた。
2020年10月には、IFSCCという化粧品の技術者が集まる国際学会で成果を発表。業界の注目を集めた。最初は「 本当にできるの?」「そんな研究何になるの?」 と懐疑的だった周りの反応も、徐々に変わってきている。
「興味があることは片っ端からやってみて、経験や知識といった糧にしてい
きたい」 これこそが磯辺さんの性分なのだろう。常識にとらわれない自由な
発想から今、世界初の技術が生まれようとしている。
クレイジーな人がいると、未来が楽しみになる。
自分でやりたいことを決め、好きで取り組んでいる礒辺さんと清水さん。
いろいろな試行錯誤はあっても、まわりにも好影響をあたえ、
「NICE!CRAZY大賞」 でも評価された。それは、「未来が楽しみに
なる賞」 かもしれない。さぁ、これからの2人は?
ヘアカラー、パーマ、そして若返り
未来の生活を変えていこう
つぎは、髪の若返り技術の製品化だ。
「製品完成を10段階の10とすると、今のところはまだようやく1まで
きた、くらいの段階」
完成すれば、ヘアカラー、パーマに並ぶ第三の化学的な毛髪美容
技術に、きっとなる。
「ヘアカラーもプロがやるのがメインだったところから、長い時間を
かけて家庭用の製品が生まれてきました。若返り技術も10年、100年
と長い目でみていけば、家庭で手軽にできるようになるかもしれま
せんね」
なぜ礒辺さんは、誰も挑戦したことがないテーマに着目し、結果を
出すことができたのだろう。
「枠組みを一歩飛び越えることは意識しています。研究でも製品
開発でも、限界がどこにあるのかを探して、それが見えたら限界の
外側を攻めてみよう、と考えるんです」
以前の上司の忘れられない言葉があるという。
「『 人々の日常生活を変えるような製品を作りたいんだ』 と。それだ、
と思いました。そんな製品が一生に一つでも世に送りだせたら、素晴
らしい。髪の若返り技術には、その可能性が必ずある。がんばって
実現させたいですね」
礒辺さん上司 松江由香子さんからメッセージ
変化が起きると二度と元に戻らないという世間の常識をものともせず、様々な分野の論文を調べ上げ、医薬や工業用途の技術を応用しこの壁を突破した大胆な発想と行動。初めて報告を聞いた時は、驚きを通り越してなんとも礒辺さんらしいと呆れてしまいました。新しいことを研究したいという彼の想いが常識を打ちやぶる原動力であり、業界で注目される所以なのだと思います。商品化にはたくさんのハードルがありますが、この技術を将来のクラシエのヘアケア基幹技術にするのだという強い意志でこの「 わくわくする研究」 をチーム一丸となって続けています。