“夢中のモト” 「好き!」 の見つけ方とは。モノ作りに携わる二人に聞きました。
一度プチッとつぶしたら、止められなくなる。緩衝材、通称「プチプチ」を、ひたすら潰すあの快感。それを永遠に楽しむことができる大ヒットおもちゃ「∞(むげん)プチプチ」の生みの親、高橋晋平さん。
株式会社バンダイでの約10年間の経験を経て、2014年に株式会社ウサギを設立。
おもちゃクリエーターとして数々のおもちゃを世に送り出し、人々を笑顔にしています。
世の中をくすっとさせるアイデアを日々生み出している、高橋さんの「夢中」って何だろう?
自身もおもちゃ「ルービックキューブ」が大好きで、「ねるねるねるね」などの「知育菓子®」の商品開発を担当している、くらしの夢中観測員 クラシエフーズ 宮迫 雅との対談で紐解きます。
「笑い」は生活必需品。二人の今の夢中とは?
宮迫:こんにちは。本日は対談のお時間を頂きありがとうございます。高橋さんの著書「一生仕事で困らない 企画のメモ技」(あさ出版)を読ませて頂いていたので、実際にお話しを伺える機会を得て、とてもうれしいです。
高橋:こちらこそよろしくお願い致します。ところで宮迫さんはクラシエフーズで「知育菓子®」を担当されているそうですね。「ねるねるねるね」も担当されているのですか?
宮迫:はい。「ねるねるねるね」も担当していました。研究職を経て、現在「知育菓子®」の企画・開発に携わっています。
高橋:「ねるねるねるね」を担当なんて、僕にとっては神みたいな存在です!実は我が家では、クラシエフーズの“作る系”商品はほぼ経験済みです。最近ではハンバーガーとお寿司を作りました。昨日、お菓子売り場で恐竜図鑑みたいなチョコも買いましたよ。
(注:ポッピンクッキン ハンバーガー、同たのしいおすしやさん、たべる図鑑 恐竜編)
宮迫:ありがとうございます。そのチョコは、私が開発に携わった商品で、今年の7月に発売した知育菓子®初のチョコレートの商品なのです。早速手に取って頂けてうれしいです。
さてここからは、高橋さんご自身の「夢中」につながる考えや想いをお聞きしていきたいと思います。まずは、最近どんなことに「夢中」になっていますか?
高橋:僕は笑いを取ることに病的に快感を覚える癖がありまして。
自分が考えたおもちゃやゲームで遊んで、世の中の方が笑う、その瞬間がうれしくてたまらないんです。人を笑わせる仕掛けを考えたり、新商品の広報リリースでも配信後に拡散されていろいろな人にウケることを想像しながら、見出しを一文字ずつ変えてみたりして、何時間も時を忘れて考えたりします。
逆に、人を笑わせることにあまり関係ないこと、例えば税金の計算とか、オフィスの掃除とか(笑)は苦手なので、仕事の全ての局面で夢中になって輝いているとは言えないですね。
自分の家族や子どもに見せて、笑ってもらえるか、も大切にしています。目の前で人を笑わせることで自分の欲望を満たしているところがありますね。笑うことって、とても大切だと思います。もちろん食や医療なんかはとても大事な必需品ですが、「笑い」も生きていく上での必需品であり、ないと生きていけないものだと考えています。
宮迫:高橋さんのアイデアの出し方についての著書「一生仕事で困らない 企画のメモ技」(あさ出版)も拝読しました。アイデアを出すこと自体にも夢中になっていますか?
高橋:お題が面白いと、夢中になって考えます。最近だと、コロナ禍による巣ごもり需要から、カードやボードゲームなどのアナログゲームが売れ始め、1年で20作品ほどの開発に携わりました。
「ゲームを作る」というお題に没頭していましたね。ゲームのルールや、カードの内容で、みんなが笑うことを考えるのが楽しくてたまらなくて。
ゲームは、起承転結で考えています。起=ゲーム内容、承=ルール、転=ルールを覆す意外性、そして結=ゲームバランスを整えることです。結、つまりデバッグ(確認作業)が完成してこそみんなが楽しめるゲームになる、と分かってはいるのですが、起・承・転の上流のことを考えている時が楽しいし、そこに夢中になってしまうのが人間のさがですよね。
宮迫:確かにそうですね。私達が商品を開発していく上でも、アイデアを出す時はワイワイと盛り上がるのですが、そこから収束させて、実現させていく段階で、いろいろな制約を受けるので苦労しています。
高橋:商品開発は、アイデアを思いついた瞬間と発売された瞬間しか楽しくないかもしれないですね。他は全部辛いかもしれません。宮迫さんはどうですか?全部の局面で夢中になるのは無理ではないですか?
宮迫:全部に夢中は無理ですね。私は、作っていく過程が楽しいです。皆のアイデアの中から面白いものを選び作り上げていくことや、少し進んでふっと振り返った時、「最初から比べてこれだけ進化している」と感じられる瞬間が楽しいですね。
高橋:僕が一番好きな瞬間は、発売後に遊び方を人に説明して一緒に遊び、笑っているのを見る時なのですが、実はその後に開発秘話を語るのも楽しかったりします。
以前作った「民芸スタジアム」というカードゲームは、全国47都道府県の民芸品を闘わせ合うというものなのですが、民芸品の使用許可を頂くために、何日もファミリーレストランから、全国の民芸職人さんに電話をかけまくりました。断られることの方が多くて、許可を頂ける民芸品がなかなか見つからない県があったりしましたね。
また、ゲームの確認作業のためにカフェで長時間、一人で4役のプレイヤーを演じながらデバッグ作業を行いました。「俺VS俺VS俺VS俺」っていう感じです。たった一人で“コケシを召喚し、ダルマを破壊だ。”とか言ったりしていました。面白そうに聞こえるかもですが、最後の詰めの過程は、その時はめちゃくちゃ辛いです。でもその後、開発秘話として面白く語ることができれば、苦労が報われるように感じます。
「これだ!」よりも、「これじゃない!」に気付くこと。夢中の源である「好き」の見つけ方
宮迫:高橋さんは、「人を笑わせること」がとにかく好きということですが、それは子ども時代からですか?何かきっかけがあったのでしょうか?
高橋:僕は高校3年まで秋田で暮らしていました。厳格な家庭環境や、心臓病の持病があったことなども関係し、内向的な性格でした。お笑いは好きだったのですが、人前で笑いをとる、なんてとてもできないと思っていました。憧れはあったのですが、怖いしセンスもない、どうやっていいのかわからない。という心理的ハードルを抱えていたのです。
ところが、大学入学を機に地元を離れ、過去を知る者がいなくなり、思い切ってお笑いサークル「落語研究部(以降 落研)」に飛び込んだのです。最初は難しくても段々ウケるようになり、自分が考えたギャグやボケ・ツッコミで人を笑わせることに、理屈抜きの、言語化できない快感を覚えました。これが人生の転機になりました。
宮迫:その時、「落研」に飛び込めたのが、すごいですね。
高橋:自分が自然に動くタイミングってありますよね。幼稚園から高校まで、同じ人達に囲まれて育ち、最初は皆一緒だと思っていたのですが、僕は心臓が悪くて、野球もできず、友達とはすれ違っていきました。昔、仲が良かった子に中学になっていじめられる、なんてこともありました。「変わりたい」と妄想しても、難しかった。
ところが、地元の人が誰も行かない大学に行き、厳しい親からも離れる時がやってきて。エナジードリンクの広告のように、正に”翼を得た”状態で、迷わず「落研」に飛び込めたのです。
今思うと、「内向的になっていったきっかけの一つだったのでは?」と感じる出来事が幼稚園の時にありました。卒園式の日に、スケッチブックを持ち帰ったのですが、僕はその全ページに、友達の男の子・女の子の相合傘やハートマークなどを書いていました。自分の自慢の作品を意気揚々と母親に見せたところ、ひどく怒られてしまったのです。
想像もしていなかった反応に驚き、そこから、ふざけることが少なくなり、静かになっていったように思います。もしも、あの出来事がなく、幼稚園のときの勢いのまま成長していたら、大学でもイケてるテニスサークルに入っていたかもしれません。そんな歩みの中でさまざまな偶然が重なり、大学で「落研」を選ぶことになりました。それが人生のターニングポイントになって現在の仕事につながっています。
就職は、東北大学の工学部に在学していたので、ありがたいことにたくさんのリクルーターが来て、インターンシップにも参加しました。どこを選んだらいいのか分からないくらいに選択肢がありました。そんな時、インターンで行った大手有名家電メーカーでプログラミングを担当し、家電製品の性能を向上させるシミュレーションをする仕事を体験させていただいたことがあったのです。そのとき、「これじゃない!」と思いました。
「落研」で、目の前でおばあちゃんを笑わせた喜びにはかなわないと。「人を笑わせることで生きたい」と思いました。そして、「おもちゃなら人を笑わせることができるかもしれない」と思って株式会社バンダイへ就職しました。インターンシップの経験に、違和感を覚え、それを大切にすることができた自分を褒めたいと思っています。
宮迫:私も、近い経験をしています。私は大学では薬学部で薬の研究をしていました。「世の中の役に立つものを研究したい」と考え薬学部に進学したのですが、あるとき、自分は本当に薬の研究が好きなのか、疑問を抱いたのです。苦しい人を助けることも大切なことだけど、それ以上に「楽しいことを提供することがしたい」と思いました。自分が本当に楽しめることをしたい、と。面白いことをやっている会社、と探した結果、クラシエフーズに入社しました。
高橋:そこで宮迫さんが気付けたことって、とても貴重なことですね。ラッキーなことだと思います。「これだ!」よりも、「これじゃない!」に気付くことが重要なのかもしれないですね。気付けたからこそ、結果として、今僕たちがこのような仕事に就けている。運が良いことですよね。
「好き」が見つかるってすごいこと!~ひとつのものにはまることができる幸せについて~
宮迫:プライベートで夢中になっていることはありますか?
高橋:「にゃんこ大戦争」というゲームは、8年間1日も欠かさずにやっています。一つのものをやり続ける癖があって。一人暮らしをしていた10年間、食事の時間にラーメンズのDVDを毎晩ループして見ていました。作家も奥田英朗さんが好きで、同じ作品ばかり、何度も何度も読みます。
それと、最近縄跳びにはまっています。腹筋も1回もできないくらい運動が全くできない僕が、子どもに縄跳びを教えることになり、やってみたら想像以上に楽しくて。「とうとう見つけた!」と思いました。奥さんにはもっと腹筋とかをしたほうが良いのでは、と言われたりするのですが、自分がはまることができる運動を見つけられたこと自体が、人生の幸運だと思っています。宮迫さんにはそういうものはありますか?
宮迫:私は「ルービックキューブ」が大好きなんです。
高橋:そうなんですね。僕も好きですよ。ちなみに6面揃えるタイムはどのくらいですか。
宮迫:30秒くらいです。
高橋:ええっ。すごい。それは上級者ですね。
宮迫:最初は全然揃わなくて、1時間没頭しました。そのうちに6面揃える快感を覚えるようになり、タイムも5分になり、それでは友達に自慢しづらいからもっと早くなろうと訓練しているうちに、気付いたら1分を切っていました。自分の成長が楽しくなってすっかりはまりました。
高橋:はまるものを発見できることは超ラッキーだと思います。それを見つけて一生終われたら本当に幸せですよね。ひとつのものにはまることは、仕事にも生きてきます。
僕が欠かさずやっている「にゃんこ大戦争」にしても、8年毎日やっているためアップデートの歴史も知っているので、異常なほどの情報量で語ることができます。商品を開発する際にも、「にゃんこ大戦争」を例に出して、「ここがこうだから快適なのだ」と、すごい熱量で語ることができます。人生色々な楽しさを知るべき、と言う人もいますが、一つのものにはまり続ける力は格別に強いと思っています。
宮迫:私は「ポケットモンスター」が大好きで、ゲームは全作やっています。「ポケモンは子どもがやるものだし」と中高時代になって遠のいたのですが、周りに好きな人がいて、ある時「好きって言ってもいいんだ」と思ったらはじけました。自分が好きなものに正直になることは大切ですよね。案外、好きなことにブレーキをかけている人が多いのかもしれません。
高橋:最近だと、SNSの影響もあって、好きなことを世の中のアルゴリズムに寄せてしまうような風潮もありますよね。でも、仕事でも遊びでも、他人に何と言われようと、純粋にむさぼっちゃうくらい好きなことが、見つかることは、幸せなことだと思います。
好きなことを見つけるきっかけの裏には、意外とネガティブな要素があるのかもしれません。退屈が続いたり、辛いことから逃れるためだったり。僕が人を笑わせることが好きなのも、「クラスの人気者になってみたい」という寂しさやコンプレックスの裏側にあるものだったと思います。
宮迫:人を笑わせることに夢中になっている人生、素敵ですね。
高橋:宮迫さんはこの先どんな人生を過ごしたいですか。
宮迫:そうですね。自分の「好き」に正直になっていくことで、仕事も人生も楽しくなるのだと感じるようになりました。これからも好きなものに正直に生きていきたいと思っています。
高橋:それ、めっちゃ良いと思います。
僕は、やりたいことをやりたいから起業したのですが、大きい組織を辞めたら、やりたくてもできないことがものすごくたくさんあることに、退職後、初めて気付かされました。
大きな組織で大きなことができる可能性があるうちに、自分の人生の夢中と紐づく仕事をつくり出すスキルが大事だと思います。自分の人生を、会社を使って幸せにする能力を手に入れたら、そこから良い仕事がつくれます。会社というありがたい場所にいるうちにそれを実行することをお勧めします。
最近、「アイデア力」って何に一番役立つのだろうと考えていたのですが、自分の働き方を、自分にとって心地良いものにするために、活躍するのが「アイデア力」なんじゃないかと。「こういう仕事をつくったら自分が楽しいな、そして会社やお客様も喜ぶな」と、自分を中心にして考えるのもありだと思います。
クラシエのスローガンにある「夢中」という言葉はすごく強い言葉なので、「夢中にならなきゃ」と思うと、とてつもなく難しく感じてしまうかもしれません。でも「ちょっとでも自分に合った働き方、楽しい仕事をつくる」と思うだけで、「夢中」に近づいていく気がします。
プロフィール
高橋 晋平
株式会社ウサギ代表取締役
1979年秋田県生まれ。東北大学工学部入学。東北大学大学院情報科学研究科に進学。修了後、2004年に株式会社バンダイに入社。企画開発商品として、国内外累計335万個を販売し、第1回おもちゃ大賞を受賞した『∞(むげん)プチプチ』他、笑いをテーマにしたアイデア商品を多く手掛ける。2014年に株式会社ウサギを設立。近年では『民芸スタジアム』『スマホ鳩時計OQTA』『気泡わり専用アラビックヤマト』 『ショートショートnote』などの開発に携わる。著書に『一生仕事で困らない 企画のメモ技』他。
https://note.com/simpeiidea/
宮迫 雅
クラシエフーズ株式会社 マーケティング室 係長
1987年広島県生まれ。広島大学薬学部卒業、同大学院(医歯薬学総合研究科)修了後、2012年クラシエフーズ株式会社に入社。食品研究所を経て、2014年クラシエフーズ マーケティング室で知育菓子(R)のマーケティングを担当。