業務の中で経験したインタビューで発見仮説と検証のサイクルがインサイト抽出のキーポイント
突撃インタビューに挑むも、話を聞き出すことの難しさを思い知る……
生活者のインサイト(=心の奥底)を知るための手段として、実施した観測員によるインタビュー。街に出て知らない人へ突撃インタビューをしたり、自分が気になる人に会いに行き話を伺ったりして、たくさんの夢中のヒントを拾い集めました。
しかし、実際にインタビューを体験して感じたことは、人に話を聞いて深掘りをするというのは想像以上に難しい、ということ。なかでも知らない人への突撃インタビューは難易度が高く、インサイトを引き出すための情報をほとんど引き出せず終わる……なんてことも多々ありました。知っている人や著名人であれば、事前にリサーチをして、質問案を用意してインタビューをすることはできますが、知らない人へのインタビューは特に難しさを感じたのです。
では一体どうすれば、相手のインサイトを引き出すインタビューができるのか――。そんなことを模索していた時に、私にある機会が訪れました。それは、自分が所属する部署が発行している冊子『にぎわい探究マガジン アルケバボウ』の取材でプロのライターのインタビューに同行することになったのです。
そもそも『アルケバボウ』は、理美容サロンや宿泊・温浴施設と一緒に地域のにぎわいを作っていきましょうというコンセプトで制作されている冊子。クラシエ流にいえば、にぎわっている場所=夢中を作り出している場所と置き換えることができるわけです。そこで、私は業務としてだけでなく、観測員としてインタビューのスキルを学ぶことも兼ねて参加することにしました。
プロのライターはインタビュー中に、仮説と検証を繰り返している!?
今回のインタビュー対象者は、東京都の森下で「喫茶ランドリー」を運営する田中元子さん。起業家、建築コミュニケーターなどさまざまな肩書を持ち、メディアにも取り上げられるほど高い発信力を持つ彼女に対して、ライターさんはどのように話を聞いて深掘りしていくのかに興味がありました。そしてインタビューが始まると、私はあることに気づきました。
ライターさんは会話をしながらその場で、田中さんが伝えたいことの奥に隠れていることの仮説を立て→検証するために質問を投げかける、これを繰り返しているということです。そうした質問を重ねていくことで、徐々に本人も意識していなかった想いや感情、行動のきっかけなどがエピソードとして出てくるため、それが新たなインサイトにつながるということが起こっていたのです。
この流れをその場でインタビューをしながら行うことができるのも、プロならではのスキルだと感じました。実際にこの取材で発見されたインサイトはいくつかありましたが、なかでも印象に残っているのが「欲しいものは与えるだけでなく、一緒に創り出すことでパフォーマンスはアップする」というインサイトです。
「どんな人にも自由なくつろぎ」をスローガンに掲げる「喫茶ランドリー」には、宿題をする子どもや近隣のお年寄り、洗濯をする大学生など、実にさまざまな人が集まります。そして困っているが人いれば、スタッフやお客さん関係なく助け合うというコミュニティが創られているのも特徴です。
つまり喫茶ランドリーを訪れるお客さんは、自分も参加して一緒にそのコミュニティを創り上げることで、よりくつろぐことができ、高い満足感を得ているのだと、このインサイトを通して実感できました。
もし、私一人でインタビューを行っていたら、ここまで深いインサイトを発見することはできませんでした。
夢中時間を作るために大切なこととは?
夢中な時間、夢中な人生……。観測員として活動する中で私たちは、さまざまな夢中を提案してきましたが、一つお伝えしたいのは、夢中はゴールではないということです。
みなさん、好きなロードムービーを思い浮かべてください。その主人公や仲間たちは、どのシーンの時に夢中になっていますか? 間違いなくハッピーエンドの場面ではなく、目標を持ち、困難を乗り越えながら成長をしている旅の途中だと思います。そして、 私たちも今、人生という長い旅の途中を生きています。せっかくなら、今この時、瞬間もたくさんの夢中時間を持てると人生はより豊かになると私は考えます。
なかには「私には夢中になることがない……」と思っている方もいるかもしれませんが、問題ありません。じつは、あることを意識するだけで、私たちは「夢中」を簡単に持つことができます。
それは、どんなささいなことでもよいので自分で決めて、検証をするということを繰り返すことです。例えば、
・「あのIPAにぴったりのチリビーンズを作ろう」と決める
→豆の種類、トマト缶のセレクト、隠し味の入れ方まで考えて食材を準備、煮込んで冷まして、晩に検証。
・「次の休みに印象的なバイクツーリングを体験しよう」と 計画する
→あの半島を周りながら海峡を渡り、初めての街で銭湯と居酒屋をハシゴする。翌朝、次の場所に向かいながら、昨日の新体験を検証
こんな風に、日常の中にちょっとした目標を決めて→検証をするというサイクルを回して、いくのです。この目標を決めて検証をしている時間には、確実に小さな夢中が生まれています。日々のくらしの中で、この小さなサイクルをたくさん回していけば、自然と夢中時間を持つ人生を送ることができるのではないでしょうか。
それでも、小さな目標さえ見つからないという場合は、あなたの好きを何でもいいので100個書き出してみましょう。その中で好きのジャンルを分類していくと、自分はどういったものに心が惹かれるのか、どんなことに興味を持っているのか何となく傾向が見えてきます。これを参考に、くらしの中の小さな目標をたくさん見つけてみてください。きっと、あなたの夢中を導くきっかけになるはずです。
くらしの夢中観測員:大谷暁彦