世界一幸福な国、フィンランドに「夢中」がたくさんある理由。
「夢中は、くらしに幸せをもたらす」とクラシエは考えています。
夢中になることは、大人子ども関係なく、誰にでもできますし、お金や名声と違って、他人と比べる必要がないことだからです。
世の中にもっと夢中を増やすために生まれた「くらしの夢中観測所」。私たちは、夢中を増やす方法を探るため、世界幸福度報告で2年連続1位の、フィンランドを訪れました。
ホームステイやインタビューを実施し、現地に住む人のくらしをリサーチ。そこには、自分の声を聴き、自分に夢中になり、他者の夢中に寛容になるくらしがありました。
フィンランド視察にあたり、さまざまなアドバイスをいただいたのが、フィンランド大使館 商務部のラウラ コピロウさんです。
今回は、フィンランドにたくさんの夢中がある理由をより深く知るため、くらしの夢中観測員の森 栄一が、ラウラさんにお話を伺いました。
1回の大きな幸せより、毎日の小さな幸せの積み重ねが大切
森:今日は、フィンランドの方が日々のくらしの夢中をどう大切にしているかをお伺いします。まずは、ラウラさんご自身の夢中について教えていただけますか?
ラウラ:私が夢中になっているものは二つあります。
一つ目はフィンランドと日本の懸け橋になることです。
トークイベントでフィンランドのライフスタイルについて紹介して、聞いてくれた人に影響を与えられたら嬉しいですし、フィンランド企業の日本進出をお手伝いできたときも大きな喜びを感じます。
また逆に、フィンランド企業に対して日本市場についてのアドバイスを提供して、「ありがとう!」と言ってもらえる時も幸せです。
そしてもう一つ夢中になっているのが、日本のパフェです。
パフェは日本で独自に進化しているもので、クラフトマンシップを強く感じられるところが好きです。
グラスの上から順番に、パフェ職人が表現したいものを体験していく。これはもはや、ただのスイーツではなく、メディアやデザインに近いと思うんです。特にカウンター席で食べるのが好きで、シェフのお話や他の人の感想を聞いたりしながら楽しんでいます。
森:ラウラさんは、フィンランド人の幸福度が高い理由はどこにあると思いますか?
ラウラ:フィンランド人は幸福を感じる基準がシンプルで、当たり前のことでも幸せを感じる傾向があると思います。
例えば、太陽が出ているだけでも幸せを感じます。天気が良くて、ご飯もサウナもあって、好きな人に囲まれている、それだけで幸せなんですよね。
それから、1回の大きな幸せより、毎日の小さな幸せを積み重ねたほうが大きな幸せになると考えていると思います。
例えば100円のパンでも、どうでもいいお皿で食べる体験と、自分の好きなデザインのお皿で食べる体験は違いますよね。
何かを我慢して1回の豪華な食事をするより、小さなことでも自分らしく、くらしを幸せにする工夫が大事だと考えている人が多いのではないでしょうか。
森:私もフィンランドでは、普段から良いものを使う人が多いことに驚きました。ユバスキュラ大学を見学したときも、机や椅子がとても質の良いものだと感じました。
ラウラ:フィンランドでは質の良いものが、いつかのご褒美という感覚はありません。小さい頃から良いものに触れて、それを長く使っています。
森:日本も昔は良いものを長く使う概念があったのに、いつの間にか安いものを選ぶ人が多くなってしまいました。
ラウラ:日本にも昔はあった、というのはポイントですよね。
日本の社会はいろんな段階を踏んで変化してきていますが、今はまた、自分の時間を大切にする時代に入ってきていると思うので、心地よく過ごすために良いものを選ぶ人が増えるかもしれません。
昔はできていたのだから今からやることも難しいことではないと思いますし、日本はクラフトマンシップもすごく高いので、日本人だからこそ良いものを長く使う文化を復活させることができるのではないでしょうか。
フィンランドには改札がない!? 性善説が前提の社会。
森:フィンランドでもう一つ驚いたのが、駅に改札がないことでした。それと、街を見渡しても禁止事項が書いてある看板が少ないですよね。
ラウラ:性善説を前提に社会が成り立っているからだと思います。わざわざ改札をつくったり、禁止事項を書かなくても、悪いことをする人はいないと多くのフィンランド人が信じているんです。
もしも問題が起こったらそこで話し合ってコミュニケーションの機会にすればいいと考えています。税金も高いけど、正しく使われていると信じているからみんな払っているんです。
森:それってすごいことですよね!日本は逆に禁止事項が多いです。何かとマニュアルを作りたがるところがあって、クラシエもマニュアルやルールを作りすぎているかもしれません。
仕事に夢中になりたくても禁止事項や管理、確認があったら、仕事の中身を高めるよりも上司に報告することが目的になってしまうこともあるので、人は夢中にはなれませんよね。
ラウラ:それから、日本は1000人に1人のクレーマーを恐れて、全員その1人のために時間を費やすことになっていることがあると思います。
森:「大多数の人がOKだったらいいじゃないか」という寛容さがあるといいですよね。
ラウラ:フィンランドでは多くの人が朝8時に出社し、16時には仕事を終えて帰ります。働いている人もお客さんも休みたいのは同じだし、お互い様だと思っているので、早く帰ったからと文句を言う人はいません。
会社の働き方の面でも、従業員との信頼関係があればフレックスや在宅勤務をもっと増やせますし、そうなるとその会社で長く働く人が増えて、会社もハッピーになるのではないでしょうか。
森:16時に帰れるなんて! 正直うらやましいです(笑)。
確かに、時間で縛らないで仕事の中身で評価したほうがいいですし、「信頼を前提に」というのはクラシエの働き方改革でもヒントになります。
「ミクシ?(どうして?)」が、「夢中」を育む。
インタビューはサウナ付きの会議室で行われました
森:夏だったこともあり、フィンランドでは16時を過ぎると、家族や友人と集まる人が街にたくさんいました。
仕事後にサウナに行き、地元の仲間と楽しく話している人たちと私たちも一緒に過ごさせてもらったのですが、冬場は、たとえ湖に氷が張っていても、サウナの後に浸かってアイススイミングをすることもあるそうですね。
いろんな方とお話する中で感じたのはフィンランドの人は「本当は嫌なのにお付き合いで何かをしたり、思ってもいないのに話を合わせたりしない」ということ。
自分のしたいことを大事にして、他の人のすることも尊重する姿勢がありました。そして、人の目を気にしないので、とても自由です。
だからこそ、それぞれの夢中を楽しむことができるのだと思ったのですが、ラウラさんはフィンランドの人が夢中になれるのは、なぜだと思いますか?
ラウラ:フィンランドの教育が影響していると思います。
学校では「ミクシ(Miksi)?」<どうして?>って常に聞かれるので、正解は一つじゃないのが当たり前ですし、自分でロジックを考えるようになります。
小さい頃から自分で考える力を育てているから、自分の好きなものがわかるようになり、だからこそ好きなものに夢中になれる。
また、他の人にも自分とは違う好きなものがあるかもしれない、と考えられるから他の人の夢中にも寛容になれるのだと思います。
それから、学校で色々なものに触れる機会をつくっています。
例えば体育の授業でヨガやボウリングなど多様なスポーツをするんです。なぜかと言うとみんなの趣味を見つけることが目的だから。体育は自分の好きなものを見つけるための学びなのです。
森:好きなことが見つかるぐらい、たくさんのことに触れる機会が用意されているのですね。
フィンランドの家庭を訪問して、家の中を心地よくすることに力を入れている人が多く、くらしの中にも夢中があると感じたのですが、それはなぜだと思いますか?
ラウラ:フィンランドの気候と四季に関係していると思います。
冬が長く、寒さも厳しいので、家の中で過ごす時間が長くなる。せっかくの時間なので素敵にくらしたい。その思いからインテリアや家の中にこだわるようになるのではないでしょうか。
フィンランド大使館の中にある、カモメの壁紙の会議室
フィンランドの夏は白夜があって新緑がきれいなのですが、すごく短くて儚いのです。そんな夏を思い出せるものを冬にも楽しみたいから、木材を使った家具が増えたり、自然を使った模様が生まれたりして、フィンランドのデザインやくらしの特徴になりました。
くらしと気候と四季が全部つながっているように思います。
日本とフィンランドでは「意思決定の仕方」から違った。
森:クラシエはくらしの会社で、お菓子や漢方薬の他、シャンプーなどの日用品を販売しています。ラウラさんが日用品を買うときのこだわりはありますか?
ラウラ:インテリアの邪魔にならないものを買っています。例えば白を基調にした部屋の中に一つだけ赤いものがあると、そこにしか目がいかなくなるので、他のインテリアがもったいないですよね。
森:パッケージデザインは売り場で目立つために派手になる傾向がありますが、家に帰ってからのことを考えるというのは商品開発のヒントになります。
あくまでも主人公は使う人です。売り場の都合ではなく、使う人の都合を考えるべきですよね。
ラウラ:あとは、自分の価値観やアイデンティティーに合う商品であること。例えば私はベジタリアンなので、名刺入れも革ではなく紙でできたもののほうが自分に合っていると思って使っています。
その他の商品でも、私の場合、商品を選ぶ基準は「サステナブルかどうか」。ゴミが出ない商品のほうが買っていて罪悪感がないんです。
ラウラさんの名刺入れは紙製
森:消費にも自分の価値観を投影しているのですね。日本の場合は「売れているから」とか「安いから」といった理由で商品を選ぶ人が多い印象です。
日本人とフィンランド人では「意思決定の仕方」に大きな違いがあるように感じます。教育の話にもありましたが、フィンランド人は小さい頃から「自分が本当にどうしたいのか」を考えて決めている。
一方、日本にはそれがないので、「外部要因」で決めてしまいがちです。それが幸福度の違いにも表れているのだと思います。
日本人も意思決定の仕方を「外部要因」から「自分が本当に望むもの」に変えることが、「くらしの夢中をつくること」につながるのかもしれません。
今回ラウラさんのお話を伺って、フィンランドには夢中を容認する環境があり、夢中を育む教育があることがよくわかりました。
夢中を増やすためにクラシエができることとして、一案ですが「くらし」という教科をつくるといいかもしれません。
どんな香りの洗剤が好きなのか真剣に考えるとか、どんな色合いの部屋でどんな照明で過ごすと気持ちいいかとか、小・中学生が考える授業をやってみる。
多くの選択肢を用意して、自分の好きなものを選んでみる授業は、自分の「好き」を考えるきっかけになりますよね。
なんとこれが消火器!
こちらは火災報知器!
ラウラ:それはすごくいい考えだと思います。日本では限定品が人気ですが、それよりも自分らしいものを知って、それを買うほうがずっと満足感を得られます。
まずは「好き」を見つけることが夢中を増やすことにつながるのではないでしょうか。
森:本日はありがとうございました。
次回はフィンランドを訪問したメンバーの観測レポートから、日本に夢中を増やす方法について考えてみたいと思います。
【ラウラさんに教わった夢中になるためのヒント】
・小さな幸せの積み重ねが大きな幸せになる。くらしの中に小さな幸せを増やそう。
・禁止事項が夢中の妨げに。信頼を前提にルールを減らそう。
・できるだけたくさんのことを体験して、自分の「好き」を知ろう。
・自分に好きなものがあるように、他の人にも自分とは違う「好き」があることを認めよう。
・「どうして?」と自問して、「自分が本当にどうしたいのか」を基準に意思決定をしよう。