子ども視点や子どもの頃に好きだったものを深掘りしたら、新たな夢中ヒントが見えてきた
「くらしの夢中」って一体何なのだろう?――。 そのヒントや手がかりを探るため、さまざまな人へのインタビューからたくさんのインサイトを導き出してきた夢中観測員たち。その中から、子どもの行動や発言、また子どもの頃の体験によるインサイトに「何かヒントがありそう!」と考える観測員の綿引志帆と安田恵美が、気になるインサイトを深掘りしてみました。夢中が加速するとはどういうこと? 子どもの頃に好きだったものに大人になってもハマる理由は? そんなギモンを語り合いながら、新たなくらしの夢中ヒントを探ります。
強い憧れや欲求があると、夢中が一気に加速する
綿引:今期のくらしの夢中観測所では、「生活者まちなかインタビュー」など新しいことにも皆さん挑戦されていましたね。私はなかなか時間がとれず、家族にインタビューすることが多かったのですが、それでも毎回新しい発見がありました。
安田:綿引さんが定例会で発表するご主人やお子さんに関するインサイトは、いつも着眼点が面白く印象に残るものが多いと感じています。
綿引:身近な家族でもあらためて根ほり葉ほり聞いてみると、「実はそんなことを考えていたんだ」「こんなことに興味を持っているんだ」と新たな一面が見えてくることもありましたね。
安田:綿引さんが発表した「自分のコンプレックスを投影できるキャラクターに出会いバスケに興味を持った息子は、本当はハンデを覆す体験を得たいと思っている」というインサイトは、観測員のメンバーからの注目度も高かったように思います。
綿引:これは、日常の中で発見した息子の夢中ヒントを、「インサイト深掘りフロー」を使って磨き上げをしながら導き出したインサイトです。
安田:息子さんを深掘りしてみたいと感じたきっかけは何だったのでしょうか?
綿引:日頃から子どもたちの行動や発言は予想外で面白いと思うことが多いのですが、このインサイトは、映画「THE FIRST SLAM DUNK」を家族で観に行くことになったことがきっかけでした。『SLAM DUNK』は、私が小学生の頃にも流行っていて大好きだった思い出深い作品だったので、映画を観る前に原作の漫画をあらためて読み返したりして映画を楽しみにしていたんです。すると、中学生になる息子も私と同じようにどハマりし、映画を観ると一気にその熱が加速して、学校のバスケットボール部にそのまま入部しちゃったんです。
安田:なんと! 息子さんの熱が一気に加速したというのが気になりますね。
綿引:そうなんです。ちょうど映画を観に行った時期は、WBC(ワールドベースボールクラシック)が開催されており、世の中的には野球が盛り上がっていました。でも野球やサッカーなどには興味を示さず、バスケ一択でした。
安田:息子さんは元々バスケに興味を持っていたのですか?
綿引:水泳を長くやっていたので、バスケに興味は無かったと思います。それに彼は他の同級生よりも背が低いことにコンプレックスを感じていて、バスケをやるには不利な部分があるのですが、映画を観てから「バスケをやる!」となるまでの期間がすごく短かったんです。その夢中が一気に加速していく様子に私は興味を持ち、話を聞いてみると好きなキャラクターは、映画の主人公である宮城リョータだと教えてくれました。そこでどうして好きなのかをどんどん掘り下げていきました。
安田:映画の主人公にヒントがあると思ったんですね。
綿引:そうですね。宮城リョータは登場人物の中では背が低いけれど、足がとても速くスピードのあるドリブルで相手を圧倒する力を持つキャラクターです。そこに息子は自分を投影させているのではないかというところから、くらしの夢中ヒントシートを使ってインサイト抽出を進めました。当初私
はこのインサイトを「(コンプレックスを抱えている)息子は映画の主人公のように逆境をはねのけたいと思っている」と考えていました。でも観測員のメンバーとインサイトの磨き上げをしていくと、
「自分の体格をどうにかしたいと思っているのか」
「自分の力を高めたいのか」
「個人競技ではなく、団体競技がいいのか」
など自分にはなかった視点からの質問がたくさん飛んできました。それらに答えながらさらに深掘りをしていった結果、ただ単に逆境をはねのけたいと思っているのではなく、「自分の持ち味や個性を生かして、自分のハンデを覆す体験を得たいと思っている」というインサイトが見えてきたんです。
たしかに息子との会話を振り返ってみると「もし、背が高いという特徴が手に入るとしたらどうする?」という質問に対して「それは要らない。この身長なのにすごいというのがいい」と言っていたことを思い出しました。
安田:背が低くてもすごい! という「ギャップ」や「意外性」がバスケへの夢中を加速させるきっかけとなったのかもしれないですね。そう考えると、心の奥底にある欲求と物事が合致すると、夢中は一気に加速するのかなと話を聞いていて感じました。
綿引:そうですね。ここはさらに考察を深めていきたいところですね。
子どもの頃に好きだったものは、その人を形成する核の部分!?
綿引:安田さんは、観測所の活動の中でどういったインサイトに注目をしていましたか?
安田:私が気になっているのは「子どもの頃に夢中だったものに、大人になってもまた夢中になる人は、あの頃の感動をもう一度味わいたい」 というインサイトです。私は子どもの頃、泥だんご遊びが大好きでよく作っていたんです。大人になって子どもと一緒に泥だんご遊びをしたら、子どもよりも私の方が夢中になっていて……。昔を思い出しながら一生懸命ピカピカの泥だんごを作っていました(笑)。なので、観測所のメンバーがこのインサイトを発表した時に「わかるなぁ」と納得したんです。
綿引:子どもの頃に好きだったものに、大人になって触れると当時の記憶や感情が蘇って懐かしい気持ちになりますよね。私にとっては『SLAM DUNK』もその一つです。映画の公開をきっかけに、漫画を読み返したり、子どもと一緒に好きなキャラクターの話をしたり。久しぶりにバスケもしました!
安田:バスケも!?
綿引:はい。学生時代のようにドリブルはできなかったのですが(笑)、でもすごく楽しかったです。子どもの頃の体験や好きだったものを深掘りすることで、また新たなヒントが見えてきそうな気がしますよね。
安田:そうですね。子どもの頃って何かに夢中になると「だって好きだから」と理由もなくやり続けていた気がするんです。それはもう本能に近いのかなと。ということは、その(本能的に)好きなものは、その人の核の部分でもあるんじゃないかなと考えるようになりました。
綿引:なるほど。理由もなく好きなこと=その人の核の部分というのはわかりやすいですね。
安田:人間の核の部分は、大人になってもあまり変わらずに持っているものなので、子どもの頃に好きだったものに注目すると、その人のインサイト(=心の奥底)を見つけるきっかけやヒントになる可能性は高いのかもしれません。もしくは、子どもの頃に好きだったものにこだわらなくても、今でも理由なくやってしまうことにフューチャーして深掘りしていくと、何か面白いことが発見できそうだなという予感がしています。
楽しむことを意識するだけで、何気ないくらしの景色はキラキラと変化する
安田:観測員としての活動をしていく中で、綿引さんにとってくらしの夢中ってどんなものだと考えるようになりましたか?
綿引:これまで夢中とは何か特別なことだと勝手に思っていたのですが、家族を含めいろいろな人を観測しているうちに、実は何気ないくらしの中に夢中のヒントはたくさん潜んでいると気づきました。なので、くらしの夢中とは、普段見ている景色をキラキラさせてくれるものだと最近は思っています
限りある時間や人生を楽しみたいという気持ちを持つだけで、くらしに工夫が生まれ、毎日がキラキラと楽しくなっていくそんなイメージです。
安田:キラキラってすごく素敵な言葉ですね!
綿引:安田さんは?
安田:私はくらしを豊かにするもの、多様性を楽しむものかなと感じています。世の中には「あの人の夢中」「この人の夢中」といろんな夢中があふれていると思うんです。なので、まずはそれを知って、時にはあの人の夢中をやってみる、この人の夢中を理解してみるといったことを楽しむことも、大切だと感じています。
綿引:多様性を楽しむことで、別の視点が生まれ、新たな夢中が生まれるきっかけにもなりそうですね。
安田:私たちのくらしの夢中の探究は、まだまだ続きそうですね。