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「夢中になった時間が自信になる」 世界で戦ってきた福原愛さんの夢中とは?

3歳で卓球を始め、多くの夢中になる時間を過ごしてきた福原愛さん。

アテネオリンピックから4大会連続出場し、ロンドン、リオオリンピックと2大会連続でメダルを獲得するなど、トップアスリートとして数々の成績を収めた彼女は、引退後、2児の母として育児に奮闘中です。

2021年1月には、卓球界やスポーツ界への貢献、そして応援いただいた方々に社会貢献活動を通じて恩返しをするため、自身の想いを具現化する母体となる株式会社omusubiを設立。新たなスタートを切りました。

夢を叶えるために戦ってきた福原さんが考える夢中とは?そして、夢中になった時間は今の福原さんの人生にどんな影響を与えているのでしょうか?

深く没頭した経験を持つトップアスリートならではのお話には、夢中になるためのヒントがたくさんありました。

夢中=時間を忘れること。深海に一人で潜り込むような感覚

私にとって夢中とは、「時間を忘れること」です。

卓球の試合はいくら長くても1時間半ぐらいなので、その間ずっと集中していられるように、それ以上の時間、ほぼ2時間連続での練習をしていました。

練習中にパッと時計を見ると「もう1時間半も経っていた!」と驚くことが多く、そういう日は「今日は夢中で練習できたな」と思っていたので、「夢中」と聞くと、時間を忘れて練習した日々を思い出します。

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ナショナルチームの体育館に設置されている時計はとても大きいのですが、その時計が目に入らないくらいに深く没頭していました。深海に一人で潜り込むような感覚です。

もちろん、夢中になれない日もありました。夢中になれるかどうかの違いは、ほとんどの場合、目的がはっきりしているか否か。

例えばこの選手に対するこの戦術を練習する、というように練習の目的をはっきりさせておくことが大事です。それがないと何をすればいいのか分からなくなり、体育館にいるだけで安心してしまっている、夢中になれない練習をしてしまいます。

私の場合は相手選手の写真を体育館の壁に貼り、「今日はこの選手を倒すためにやるんだ!」という気持ちで練習していました。

それから、北京オリンピックですごく悔しい思いをしたので、負けた瞬間の写真を引き伸ばして大きいパネルにして貼っていました。卓球雑誌の方にお願いして入手したんです。

そして「二度と同じ思いはしない」という意識で、そのパネルを見ながら練習していました。

オリンピックに向けて4年のスパンで計画を立ててはいるのですが、途中で怪我をする可能性もありますし、選手にとって4年間は長いです。遠くを見すぎると頭でっかちになってしまいがちなので、おぼろげに見据えている感じでした。

それよりも一日一日、しっかり夢中になって練習を積み重ねることが、結果的に4年後につながっていくと考えていました。

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「頑張ってきた過去の自分に顔向けできないことはしたくない」

私は、夢中になる経験を数多くする中で、「私ってこんなに夢中になれるんだ、こんなに頑張れるんだ」と、自分に自信が持てるようになりました。集中力も身に付けることができたと思います。

卓球は、競泳や陸上のように数字で測れるものではないので、自分がどれくらい上達したのかが分かりにくい競技です。自分の調子が悪くても、相手がもっと調子が悪いと勝ててしまいます。

でも「夢中になれた日」は自分が進歩していることが実感でき、安心できました。技術面なのか、または集中力や体力かもしれませんが、どこか一つの能力は伸びたと思えたのです。

それから、自然と時間を有効活用できるようになりました。例えば、ダラダラ3時間やるよりも、30分集中してやったほうがずっと効率がいいと思います。

選手でなくても一日が24時間であることは変わらないので、時間を区切って集中することができるのは、日常生活でも役に立っています。

子ども時代

思い返してみると、練習方法も年齢とともに変化していきました。子どもの頃は、千本ラリーを毎日するなど、数字で目標を設定し、クリアしていく練習をしていました。簡単に言うと、目をつぶっても打てるぐらいのレベルになるために、ただ体で覚える練習です。

しかしそれだと体力も必要ですし、体を使う分、怪我をしやすくなります。私も怪我をしたことで、20歳ぐらいから一球一球考えて、頭を使って練習するようになりました。

怪我をしたりする中でも懸命に練習に取り組んできたことが、今やるべきことに全力で取り組む姿勢に繋がっていると思います。「頑張ってきた過去の自分に顔向けできないことはしたくない」という想いがあるのです。

せっかく一つずつ精一杯やってきたのに、ここで気を抜いたり、ズルをしたりしてしまったら、頑張ってきた過去までなくなってしまう気がします。

私が今、後悔なく過ごせているのは、周りの方のサポートや応援してくださる方のおかげであることはもちろんですが、自分自身が頑張ってきた過去の積み重ねがあるからだとも考えています。

今、頑張ることで、きっと未来の自分が笑っている。もしもここで折れてしまったら、3年後、5年後の自分が苦しい思いをすると考えると、今頑張るしかないと思うんです。

トロフィー

「本気で変えようと思えば、3秒で気持ちは変えられる」

苦しい時、辛い時もありますが、そういう時は「本気で変えようと思えば、3秒で気持ちは変えられる」という母の言葉を思い出します。

そこに行くまでにはたくさん泣いたりしているのですが、泣くだけ泣いて、思いっきり落ち込んで、「よしっ」となったら、最後はその言葉通りに切り替えるようにしています。

私の場合、仕事など自分にしか影響が出ないことはスパッと決められるのですが、家族のことになると、「どうしよう」となりがちで。良くも悪くも家族の影響を受けやすいので、選手時代はできるだけ家族に連絡しないようにしていました。少しでも優しい気持ちになりたくなかったのです。

夫と出会ったのが11歳で、そこからいろんな大会で一緒になりましたが、実際に会話したのは3回ぐらいしかありませんでした。

出会って14年ぐらい経ってから初めて連絡先を交換したのですが、それまでは怖くて話しかけられなかったそうです。試合会場での私は牙が出ていて、噛まれるんじゃないかと思うくらい怖かったと言われます。

選手時代は集中しなくてはなりませんし、周りにも集中していると分かってほしかったんです。目が合ったら挨拶しなければならないので、誰とも目を合わせたくなくて、イヤホンで音楽を聴きながら下を向いていました。

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そこまでして、「何のために勝つのか」と思われるかもしれませんが、「周りの人を驚かせたい、喜んでもらいたい」という想いが大きかったです。

25年間の選手生活の中で、自分のために勝ちたいと思ったことは一度もありませんでした。小さい頃から、身長も小さい年下の私が中学生や大人に勝って、周りの人を驚かせるのが好きで。

オリンピックのときも、メダルをかけてもらった瞬間より、メダルを皆さんにお見せして、喜んで下さる顔を見たときのほうがうれしかったです。もしもメダルが半径50mぐらいあるケーキだったら、一口ずつ分けたいような気持ちでした。

後輩たちのために「道しるべを」つくりたい

私は今、選手を引退し、子育てに奮闘しながら、Tリーグアンバサダーなどのお仕事と並行して、卓球やスポーツを通して経験してきたことを活かし、ボーダレスな社会や、人と人の関係性をより大切にできる環境づくりへの取り組みもスタートしました。

卓球の場合、海外では出産後に復帰している選手も多く、出産後、多くの先輩ママ達に「これでもっと強くなるね」と言われました。「子どもが生まれてもっと頑張れるようになった。気持ちの面だけでなく、技術力もアップした」と言うのです。

「どうしてだろう?」と思っていたのですが、育児と仕事を両立する中で、最近その理由がなんとなく分かるようになってきました。

第一に、子どもの相手をしていると、選手に必要な忍耐力が鍛えられます。そして子どもを預けて練習していると、集中してより効率的に練習しなければと思うようになります。

さらに、子どもたちにいいところを見せたいので、競技意欲の向上にもつながるということなんだと思います。

お子さま

私も結婚・出産を経験して、使える時間は短くなるけれど、子どもや夫など想いを注ぐ人ができると、今まで以上に頑張れるようになることが分かってきました。

仕事も家族のこともできるだけ完璧にしたいので、常にあっという間に時間が過ぎてしまいます。紙オムツを洗濯機で洗ってしまうなど失敗もありますし、手抜きしている部分もありますが、毎日夢中になっている実感があります。

7歳の時に、アトランタでオリンピックを観戦してからオリンピック出場が夢になり、その次は、メダルを獲得するのが夢になりました。私の子供のころからの夢は叶ったので、これからは後輩たちの「道しるべ」をつくるような活動をしていきたいと考えています。

その第一歩として、2021年1月『株式会社omusubi』という会社を設立いたしました。

社名の『おむすび』には、3歳から卓球を通じていただいたご縁や出会いに感謝の気持ちをもち、人と人の想いを結んでいきたい、
現役時代に補食として食べていたおにぎりのように、皆様を笑顔にしパワー補給していただけるような存在になりたい、そんなふたつの願いが込められています。

世界がコロナ禍でこのような厳しい状況の中で今なのかととても悩みましたが、選手時代は「結果」として届けていた明るいニュースを、今度は「貢献活動」として、心があたたかくなるようなニュースに変えてお届けできればと思っています。

ファン

夢中になるためのルーティンを発見する

もしも、「なかなか夢中になれない」と感じているとしたら、夢中になるためのルーティンを発見するのがお勧めです。

これは選手時代に身に付けたことなのですが、自分が夢中になっていたときに、その前に何をしていたか思い出してみると、夢中に入るためのヒントが見つかります。

それから、時間がない中でも心の栄養になることは、やるようにしています。例えば睡眠時間は4時間になるけど、夜中にとことんネイルをすることも。翌朝、テンションが上がるんですよね。自分の中で楽しみを見つけて、育てていけるといいのではないでしょうか。

そういえば先日、グレープフルーツの種を植えてみたら、芽が出てきたんです。あとはニンニクを発酵させて、自家製の黒ニンニクを作ったりもしています。

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ニンニクを、

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発酵させるとなんとこんな黒ニンニクに!

子どもたちにも、夢中になる経験をたくさんさせてあげたいです。パズルや塗り絵など、子どもが何かに夢中になっているときは、邪魔しないように気を付けています。何でもいいので、夢中になれるものを見つけて続けてほしいと思っています。

【福原愛さんに教わった夢中になるためのヒント】

・夢中になった時間を自信にしよう。
・頑張った過去の自分に恥じない行動をしよう。
・今の自分の頑張りが、未来の自分を笑顔にすることを知ろう。
・本気になれば、3秒で気持ちは変えられることを知ろう。
・夢中になる前の行動を思い出し、ルーティンにしよう。
・忙しくても心の栄養になることはやろう。
・誰かが何かに夢中になっていたら、見守ろう。


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プロフィール:
3歳9か月で卓球を始め、11歳でナショナルチームに入り、ワールドカップシングルス銅を獲得。全日本選手権の全タイトルを獲得し(優勝回数20)、史上初のグランドスラムを達成。
アテネ五輪から4大会連続出場し、ロンドン五輪女子団体銀、リオ五輪女子団体銅、シングルスベスト4入賞。
29歳で現役を引退し、現在は株式会社omusubi代表取締役、二児の母でもある。クラシエとは、2016年4月~2021年9月までスポンサー契約。


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